神楽坂の道を歩くと、少しだけ懐かしい気分がする。日本人は隘路が好きだ。狭い路地と路地にある出会いやすれ違い、そして階段を降りて広がる通りの往来と商い。俺は東京に来てはじめて神楽坂を歩いた。洗練された町は、人工的な街と違って風情を残していた。広島は大部分を戦災で失ったが、少し田舎に行くと、古い民家や街が残っていて、それは長く人々が住んで生活をした営みの痕跡が至るところにあった。
セイジさんから来たLINEに書いてあった店は、とても敷居が高くて、ゲイマッサージって、儲けてるんだなぁと思った。料亭って言うのかな… 1人では行ったことのないようなちょっとオシャレなお店だった。
店内に入ると、着物を着た女性に案内されて、個室の立派な座敷に通された。まだ、誰も来ていないようで、時間より20分はやくついたのだけど、場所を間違えてしまったり、自分以外誰もいない世界に転生してしまったのではないかと思ったりした。俺はただ、障子襖を見つめて、はやく来てしまったことをちょっと後悔していた。待つのは攻め入るよりもとても緊張する。
目を閉じて禅の僧侶のように待っていると、すごく女性的な茶色でやや髪が長い、ジャニーズ系の20代くらいの男の人が着物の女性に案内されて入ってきた。
ジャニーズ系の人 - こんにちは〜 あのー、FMのマッサージの人?ですよね? ここであってますよね〜?
俺 - あっ、はい。あってると思います。まだ誰もきてなくて。。自分も心配でした。
ジャニーズ系の人 - いやーん、よかったー。間違えたかと思ったー。オウサカさんとか先に着いてる、って言ってたからはやめに来たのにー💦
俺 - で、ですよね。自分もはやく来てむちゃくちゃ心配でした。間違ってなくてよかったです💦
ジャニーズ系の人 - 私たち2人して間違ってる、ってことないよね?? ね??
俺 - オウサカさんの名前で予約入ってたので大丈夫だと思います💦
ジャニーズ系の人 - そうよね。そうだよね。じゃあ大丈夫かっ🙆♂️
テーブルを挟んで、お互いに時々話題を振りながら、なんとなく沈黙と会話を繰り返して、ちょっと気まずいエレベーターの中のようにひと時を過ごした。
俺 - 自分ユウタ、って言います。お名前は何ですか?
ジャニーズ系の人 - ミツル、なんだけど、みんなミッコって呼んでる。仕事の時はしゃべるな、ってオウサカさんに言われてるの。オネエがでるから、だからマッサージ中は、はい か いいえしか言わないの。無言よ。わたし。
いろんな人がこのグループにはいるんだと思った。確かに、ミッコさんは喋らなければ相当イケメンだと思った。
そうこう沈黙と会話を繰り返しているうちに、ガヤガヤと6人くらいの集団が話しながら近づいてくるのがわかった。その集団は障子襖の前で立ち止まり、着物の女性が襖を開くと、俺は目を疑った。それは、よく知っている人で、まさかここで会うとは思わなかったからだ。
ダイちゃん!?? あ、アキマサくん!??
外で談笑していた仲間が後ろからも大勢入ってくる。ダイちゃんとアキマサくんは アッー!!!って指さしたままその波に押されて座敷に入ってくる。そして、ミッコさんの隣にわらわらと座り、マジで!?マジで!?と瞳孔が開いた目で俺のほうを見ている!
ダイちゃん - マジかっ マジビビる。ユウタがいるなんて!? もしかして新人ってユウタ?? 前からいた??
アキマサくんはハイタッチ🤚してきたので思いっきり返した。🤚
気がつくと、さらに大勢の人が入り、あっと言う間に20数席がいっぱいになった。セイジさんとオウサカさんも最後に入ってきて、全員が喋りまくる大宴会が飲み物がくる前にもうはじまっていた。
オウサカさん - せ、静粛にー!笑
なんとなくまだ賑やかだが、60デシベルくらいに下がった。
セイジさん - 一度会話をやめてくださーい 笑
50デシベルくらいになった!
オウサカさん - 今日は、すごーく遅い新年会、及び、新人の歓迎会をいたします! 最初に、新人を紹介します!順番に自己紹介っ 名前と、年齢と、好きなタイプと、今後の目標を語ってくれー!
自分以外にも3人の新人さんがいて、俺よりも顔も身体もできていて、自分は情けなくて押しつぶされそうだった。
新人1 セイヤ - セイヤと言います。本名です。親が聖闘士星矢が好きでこの名前になりました! 23歳です。好きなタイプはガチムチで、車買うお金を貯めようと思っています💪
新人2 ツヨシ - ツヨシと言います。27歳です!元々マッサージをしていて、もっと稼ぎたくてゲイマッサージをはじめました!目標は貯金をして1000万円貯めることです🙆♂️ えっと好きなタイプは、タチのドMです。
新人3 リョウマ - リョウマです。21歳で、ビデオ男優もやってます💦 タイプは誰でもいいです。笑 目標は特にないですが、ビデオレーベル立ち上げたいな、って思ってます。💦
俺の順番がきた!立ち上がって、イケメンだらけの座敷を見渡しながら自己紹介をした
- ユウタです。19歳です。今月、19歳になりました。アメフトをやってます。好きなタイプは自分よりガタイのいい人で、目標は防具とか、部活の道具を買えるくらいになりたいと思っています。💦
- キャー🙀アメフト部〜!??🏈
ミッコさんが叫んだ。俺はどうしてミッコさんが叫んだのかよくわからなかったが、周りの人の自分を見る目が瞬間的に変わったのに少し異変を感じた。なんだか、急にみんながとても好意的に迎え入れてくれている気がした。
各々の自己紹介が終わると、ちょうどお酒がテーブルに並べられて、そんなこんなで、乾杯をして、またとどめのない談笑が始まり、宴会はアメフト部🏈の新歓と同等かそれ以上にハチャメチャだった。酒に酔った自分は、誰と会話したか覚えてないし、誰とチューしたかも覚えてなかった。ミッコさんがキス魔だということだけは今後の戒めとして記憶した。
多くの仲間と顔合わせができた。自分の居場所を3ミリだけ広げることができたと思った。
こうして、俺のゲイマッサージ生活がスタートした。💪